開幕6連敗、選手の練習ボイコット、監督交代…。今季のマインツは、シャルケと並んでどん底のスタートだった。
日に日に2部降格が現実味を帯びる中、ひとつの大きな人事が事態を好転させることになる。
マインツを知る者たちの帰還
シーズンが折り返しを迎えた2020年末、クラブはクリスティアン・ハイデルを取締役会に復帰させることを発表。また、2017年まで監督を務めていたマルティン・シュミットをSDとして招聘したことを併せてリリースした。
特に大きかったのがハイデルの復帰だ。
選手経験がなく、元々はBMWのディーラーだったという異色の経歴を持つハイデルは、1992年にボランティアとしてマインツ入り。フロントとしての才能を見せ始めると、2001年に選手だったユルゲン・クロップを暫定監督に抜擢。2009年にはトーマス・トゥヘルをU19監督からトップチームに引き揚げるなど、後の”ヒット作”を連発した。
また、選手を見る目も確かだった彼は、アンドレ・シュールレや岡崎慎司などをチームに引き入れ、市場価値を高めてトップクラブに売却するという経営基盤を築き上げた。
レッドブル・グループから復帰
そんなハイデルとシュミットの選んだ新監督が、ボー・スヴェンソンだった。
マインツが選手としての終着点となったスヴェンソンは、そのままクラブの下部組織で指導者キャリアを送っていると、その働きぶりをレッドブル・グループが評価。19/20シーズンに、ザルツブルクのセカンドチームであるリーフェリングの監督に就任した。
リーフェリングでは、20歳以下の選手が中心のヤングチームを率いて、オーストリア2部リーグを3位でフィニッシュ(19/20シーズン)。今季はスヴェンソンが退任するまで首位を走っていた。また、カリム・アデイェミやモハメド・カマラら有望な若手をトップチームにしっかりと送り込み、結果と育成の両立を成功させた。マインツは、スヴェンソンを復帰させるために違約金を満額支払ったのだった。
フランク×ラングニック
ブンデスリーガでは現在、オリヴァー・グラスナー(ヴォルフスブルク)やアディ・ヒュッター(フランクフルト)、マルコ・ローゼ(ボルシアMG→ドルトムント)など多くのレッドブル系監督が指揮を執っている。マインツも、アヒム・バイアーロルツァーで失敗しているが、もう一度トレンドに乗った形だ。
そしてスヴェンソンは、クロップが師として仰ぐヴォルフガング・フランクから脈々と受け継がれるマインツのDNAを持ち合わせた人物でもある。
フランクは、1980年代にACミランで近代的なフットボールをしていたアリゴ・サッキに影響を受け、スモールクラブのマインツでそれを実践。マンツーマン・ディフェンスからゾーン・ディフェンスへ移行し、フォーメーションを[4-4-2]に変更。その4バックの一角に組み込まれたのがクロップだった。
そしてまた、サッキ・ミランのビデオを擦り切れるほど見て研究したラングニックが、当時率いていた小クラブのSSVウルムに落とし込んでいくのは同時期のことである。
つまり、この親和性の高さからして、フランクの「マインツDNA」とラングニックを軸とした「レッドブル・イズム」を持ち合わせた、スヴェンソンのような”ハイブリッド監督”が現れることは必然だったのかもしれない(マインツで選手時代を過ごし、ザルツブルクで指導者キャリアを積んだローゼもその1人だ)。
2020年はわずか6ポイントだったマインツの勝ち点は、スヴェンソン指揮下になった年明け以降、19ポイントを上乗せして残留圏までたどり着いた。今季残留を達成できるかはわからないが、ハイデルやシュミットとの契約は、2部降格の場合でも有効であるという。
クロップが去り、トゥヘルが去り、ハイデルまでも去って色を失いつつあったマインツだが、それを取り戻しつつある。今シーズンの結末がどんな形になろうとも、長期的に見ていく価値があるクラブではないだろうか。
参考資料
1.クロップやトゥヘルから受け継いだマインツの系譜…スベンソンは古巣を救えるか(footballista)
2.マインツに息づくサッキ流【前編】クロップの原点は恩師が見せたビデオ(footballista)
3.マインツに息づくサッキ流【後編】ドイツ屈指の「指導者養成所」に(footballista)
4.Wolfgang Frank: Der Innovator, der nicht nur Klopp inspirierte(kicker)
5.デイリーサッカーニュース Foot! MONDAY 2017/02/20放送分(J SPORTS)
フランク、ラングニックと同様にフライブルクのフィンケ(元浦和レッズ監督など)もこの流れにありますね。