RBライプツィヒのユースから“アカデミーを廃止した”クラブへ ブレントフォードの育成戦略とは

RBライプツィヒのユースから“アカデミーを廃止した”クラブへ ブレントフォードの育成戦略とは

 昨年7月、RBライプツィヒにとって大きな移籍取引きがあった。

 それが、U-19チームに所属していたマッズ・ビストルップのブレントフォード移籍である。

 これだけを見れば、ただ単にユースの選手が別のクラブへ移籍しただけと思われるかもしれない。

 だが、このブレントフォードというチーム、実はアカデミー組織を持っていないのだ。

 今回はクラブ史上初めてプレミアリーグに昇格し、いきなり開幕戦でアーセナルを破って注目を集めるブレントフォードについて掘り下げていきたい。

オーナーはプロギャンブラー

 ブレントフォードがプレミアリーグ昇格という成功を収めるきっかけとなったのは2012年、マシュー・ベンハムという男のオーナー就任から始まる。

 名門オックスフォード大学卒業後、金融の世界で働いていたベンハムは、「プロギャンブラー」に転身。ベッティング会社で働きながら、自身もスポーツベッティングのギャンブラーとして賭けを行っていた。

 そんな彼は、2004年に統計分析会社SmartOddsの創設者となる。

 ベンハムが統計分析のメソッドをクラブ運営に持ち込むと、ブレントフォードは躍進。ついに今季、プレミアリーグ挑戦まで上り詰めた。その手法から「フットボール版マネー・ボール」とも言われた(ベンハム本人は否定している)。

アカデミーを廃止してBチーム設立

 ベンハムは2014年にデンマーク1部ミッティランの経営権も取得しており、翌年にはミッティラン会長のラスムス・アンカーセンをブレントフォードのフットボールディレクターに任命している。

 このアンカーセンもデータ分析などに優れており、その方法論から「安く買って高く売る」移籍サイクルを確立。ベンラーマ(ウェストハム)、ワトキンス(アストンヴィラ)、モペイ(ブライトン)らは高額の移籍金を残してブレントフォードを去った。2季前に3部得点王、昨季は2部得点王を連続して獲り、今季プレミアリーグ注目のストライカーであるイヴァン・トニーも、将来的に彼らに続くだろう。

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 アンカーセンは、2016年に大きな決断をする。それがアカデミー組織の廃止である。

 決断に至った理由はこうだ。

 ロンドンを本拠地とするブレントフォードは、才能の奪い合いをする激戦区に身を置いている。そのため、将来有望な若手は基本的にチェルシー、アーセナル、トッテナムのような強豪に刈り取られてしまう。

 そこでアンカーセンは、年間200万ポンドほど運営費がかかる下部組織を「採算が合わない」として廃止。代わりにBチームを設立する。

 このBチームを構成するのは、主に他クラブのアカデミーから漏れた17歳〜20歳の選手。彼らを拾い上げてトップチームの戦力、または市場価値を高めて売却できるように育成する。

 Bチームの大きな利点として、通常のユースチームのようにリーグ戦や大会への参加を強いられることがないため、自由にマッチメイクができることにある。それによって、日頃から強豪クラブのユースと対戦したり、年齢制限のない成人チームとの試合を経験することが可能に。先日ブレントフォードBは、クリスタル・パレスのトップチームとプレシーズンマッチを行い、1-1で引き分けた。

ブロガーのスカウトからキック専門コーチまで

 データ分析によって選手のポテンシャルを評価するブレントフォードだが、それを発掘する人材や伸ばす人材も多種多様だ。

 ブレンダン・マクファーレンは、元々フランスの2部リーグであるリーグ・ドゥの選手を英語で紹介するブロガーだった。彼は、後に5大リーグへステップアップするブファル、マルキュイ、ラングレらの記事を当時から執筆しており、それを見たブレントフォードが採用。フランス市場をチェックするスカウトに抜擢され、ベンラーマやモペイの取引きに関わった(現在はトゥールーズのスカウトとして働いている)。

 また、スタッフ陣も監督やアシスタントコーチだけでなく、キック専門のコーチやリヴァプールが導入して話題となったスローイン専門コーチ、さらには睡眠の専門家などもチームに招き入れている。

自前選手が出てこないRBライプツィヒ

 RBライプツィヒは、16/17シーズンにU-23チームを解体した。

 現在アカデミーの最上位はビストルップもいたU-19であるが、トップチームとのレベル差は大きく、未だ主力として定着した選手はいない。

 その乖離を埋めるため、RBライプツィヒは「キャリアセンター」というものを設立。下部組織の選手を、他クラブのトップチームへローンさせて成長を促すという戦略を取っている。ただ、このプランが成功するかを見るには、まだ時間が必要だろう。

 ビストルップは先日のアーセナル戦で途中出場を果たし、プレミアリーグデビューを飾った。

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 彼がブレントフォードの魅力的なBチームで成長し、トップチームの戦力に数えられているという事実は、RBライプツィヒの下部組織について考えさせられる大きなトピックとなるかもしれない。

参考資料

1.アカデミーでの育成はもう無理!?ブレントフォードのイノベーション(footballista)

2.“74年ぶり昇格ロンドンの小クラブ”には下部組織がない? 特殊な育成と補強、ハイプレスに活路を求めた理由(NumberWeb)

3.プレミア昇格ブレントフォード、オーナーは「ギャンブラー」だった(Qoly)

4.ブレントフォードFC(Wikipedia)

5.Exclusive | Brendan MacFarlane, Brentford’s Lead Scout in France: “Bryan Mbeumo’s transition from Ligue 2 to the Championship has been awesome.”(Get French Football News)

ビストルップのような北欧選手やフランスの選手を安く獲得してきたブレントフォードも、イギリスのEU離脱によってこれからアプローチが変わってくるかもしれません。次はどんなプランでクラブを前進させるのか注目ですね。

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